【インタビュー】表現は「救い」であり、存在するための「言語」。
ロシアからパリへ、自らの真実を世界と分かち合うアーティスト、ジェナ・マービンの現在地
LGBTQ+への弾圧が激化するロシアに突如現れた次世代のクィア・アーティスト、ジェナ・マービン。首都モスクワから約10,000キロ離れた極寒の地・マガダンで育ったジェナは、幼い頃から自らのアイデンティティを自覚し、異質さゆえに暴力や差別の標的とされてきた。しかし、ジェナはその痛みやトラウマを「アート」という武器に変え、スキンヘッドにハイヒール、有刺鉄線といった装いで街に立ち、無言のパフォーマンスで抗議の声を上げ続けてきた。その類まれなる芸術性は「VOGUE RUSSIA」誌面を飾るなどSNSでも大きな注目を集めた。現在はロシアから亡命し、パリに活動拠点を置く。初個展『PROPAGANDA』を皮切りに、リック オウエンスやミシェル・ラミー、フィーカル・マターらといった世界的アーティストとのコラボレーションを果たすなど、ますます飛躍を遂げ、撮影当初21歳だったジェナは、現在26歳になった。今回、映画『クイーンダム/誕生』の公開を前に、ジェナが自身の哲学、そして仲間や家族との絆を語ってくれた。
「私たちが世界を変える」――監督・プロデューサーとの運命的な出会い
本作の始まりは、一本の電話だった。当時まだシリーズ番組として構想されていた本作の出演者を探していた監督のアグニア・ガルダノヴァに、知人がジェナを紹介した。 「タクシーに乗っている時に彼女から電話がかかってきました。それは素晴らしい会話で、私はすぐに彼女のことが大好きになりました。彼女は私に『私たちが一緒に世界を変える』と言ってくれた。そんなことを言ってくれた人は、彼女が初めてでした」 驚くことに二人はわずか10分ほどの距離に住む近所同士であることが分かり、すぐに絆を深めた。さらに、のちに加わったプロデューサーのイゴール・ミャコチンもジェナと同じマガダン出身と判明し、「故郷を離れてから、マガダン出身のクィアな人に会ったことがなかった」と語るジェナにとって、この出会いはまさに運命が引き寄せたものだった。
パフォーマンスは「言葉を失った人たちの言語」
なぜジェナは、自らの身体をキャンバスに表現を続けるのか。そこには「不十分だ」と否定され続けた過去への抵抗がありました。 「私にとってパフォーマンスは救いです。周囲から『理想の姿にほど遠い』『あなたは不十分だ』と突きつけられ、自分自身の表現の力を重荷だと思っていた時期もありました。だからこそ私は、自らの不完全さを、公共の場でのパフォーマンスへと変えることにしたのです。言葉が尽きた者たちのための言語が、パフォーマンスなのです。それは常に何かを失い続ける道でもあります。それでもなお、その場に立っていられるなら――それはあなたが語っている証です。そしてあなたが語っているなら――それはあなたが存在している証です。」
ロシアからフランスへ。ハイヒールからスニーカーへ履き替えたような変化
2022年、ロシアによるウクライナ侵攻が勃発。永遠にロシアに戻れなくなってしまう直前、ジェナはロシア国旗の三色旗を象徴する50人のパフォーマーと共に、凄まじい緊迫感の中で最後のパフォーマンスを敢行した。その後、フランスへと拠点を移したジェナは、両国の環境の差をこう表現する。 「例えるなら、これまでの人生ずっと20cmのハイヒールを履いて石炭の上を歩き続けてきたのに、突然、木の床の上を履き心地の良いスニーカーで歩き始めたようなもの。それほどの違いがあるのです」 ロシアでの日々は「一日一日を無事にやり過ごせたという、切実な安堵感」の連続だったと振り返る。「学校という組織では先生と打ち解けられず苦労もありましたが、学校を離れてソロ活動を始め、好きな人たちに出会えたことで周囲の不穏な出来事を忘れることができました。困難はありましたが、同時に数えきれないほどの喜びと美しい瞬間もありました。特にロシアでの最後の1年は素晴らしかった。それまで、本当の意味での『自由』を感じたことは一度もなかったのですから」
不安を分かち合える存在
現在、パリで新たな一歩を踏み出しているジェナに、不安を分かち合える存在を尋ねると、温かな答えが返ってきました。「もちろん。フランスで、愛に包まれています」
映画『クイーンダム/誕生』はいよいよ明後日1/30(金)全国公開。
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