1月30日(金)シネマート新宿にて、LGBTQ+への弾圧が激化するロシアの現実を捉えたドキュメンタリー映画『クイーンダム/誕生』の公開記念舞台挨拶が行われました。 登壇したのは、本作の主人公であり、ロシアからフランスへ亡命したクィア・アーティストのジェナ・マービン氏、そしてプロデューサーのイゴール・ミャコチン氏。司会は、本作の公開に先駆け前夜祭イベントを共催したアーティストデュオMES(新井健&谷川果菜絵)が務めた。

「ロシアでは孤独だった」——世界各国の映画賞を受賞した若きクィア・アーティスト、ジェナ・マービンが初来日!
絶望を希望に変えた「難民申請時」の約束——「あなたの痛みを共有し続けて」
映画とともに世界へ羽ばたいたジェナが、ついに東京の舞台に立つ!
映画『クイーンダム/誕生』はプーチン政権下のロシアにおいて、クィアであるために差別や暴力の標的にされながらも、独創的なパフォーマンスで権力に抗い続けてきたアーティスト、ジェナ・マービンを追った91分間のドキュメンタリーだ。
スクリーンの中からそのまま飛び出したかのような、圧倒的なインパクトを放つ白塗りのメイク。スリムな長身を高いヒールに乗せて登壇したジェナに、観客の視線は釘付けになった。続いて登壇したのは、本作のプロデューサーであるイゴール・ミャコチン。司会を務めるのは、新井健と谷川果菜絵が共同制作するアーティストデュオ「MES」だ。二人が本イベントに携わるきっかけとなったのは、2025年に実施したロシアの政治犯についての展覧会「鉄格子の向こう」を通して本作に知り合ったことだった。公開前夜には、新宿二丁目でジェナもパフォーマンスを披露した前夜祭パーティをMESが主催。詰めかけたあふれんばかりの観客は、ジェナの魅惑的なステージに熱狂した。
現在26歳になったジェナは、映画の撮影開始時はわずか21歳だった。LGBTQ+の活動を弾圧し、差別の対象とするロシアの政府や社会に対し、アートで抵抗し続けてきたジェナ。その過激で美しいパフォーマンスゆえに常に命の危険にさらされ、深い孤独の中にいたジェナだったが、数々の映画賞を受賞する中でその運命は劇変した。 「2023年末からこの映画とともに世界各国を回りました。スペインで『文化に貢献した』と賞をいただいた時、あまりの衝撃に言葉を失いました。ロシアではずっと孤独で、誰にも理解されないと思っていた私の表現が、海を越え、一つの文化として認められたのです。」と、感慨深そうに語った。さらに、「映画という翼で、私は今日、この東京にまで連れてきてもらえた。ただただ、感謝しかありません」と、日本での初公開に万感の思いを溢れさせた。

■ 恐怖の15年——「テロリスト」とされるクィアたちの現実
本作のプロデューサーで、『チェチェンへようこそ ーゲイの粛清ー』の共同プロデュースも務めるイゴールは、現在のロシアの惨状を、静かながらも力強い怒りとともに語る。「『クイーンダム/誕生』は2023年に公開が始まった映画ですが、この3年の間にも状況は劇的に変わりました。さらにいうと、この15年で、悪い方向に変わり続けているのです。ロシアの最高裁判所はLGBTQ+を『テロリスト』と同等に扱い、レインボーの旗を掲げただけで投獄され、家族を失うことさえある。国を追われることすらある」 しかし、彼はこう断言する。「LGBTQ+の方々に安心感を与えたいというのが私たちの信念です。あなたの声は届いている。あなたはとても大事な存在です。最も大事なことは、自分を大切にして健康に生きること。政府がどんな政策を取ったとしても、私たちを根絶することは決してできないのです。」

■ 絶望を希望に変えた「難民申請時」の約束
MESの谷川果菜絵より、「日本でも、同性婚の法制化が未整備であったり、トランスジェンダーやノンバイナリーを取り巻く法整備が追いついていなかったりと、多くの心配ごとがあります。こうした中、映画やアートを通して皆さんと一緒に考えていけたらと思います。」と日本の現状を踏まえた言葉があり、最後にジェナから日本の観客へのメッセージが贈られた。
ロシアによるウクライナへの全面侵攻が始まった2022年、ジェナはこの戦争に抗い、凄惨な現実に人々の目を向けさせるべく、身体を張ったパフォーマンスを行った 。有刺鉄線で裸の体を包み、凍てつくモスクワを行進する——。その結果、ジェナは逮捕され、徴兵の危機の迫り来る中で、ロシアからの決死の脱出に挑むことになる。「難民」としてフランスへ亡命した当時のエピソードについて、ジェナはこう明かした。フランスでの短期ビザ取得を助けてくれた女性の言葉が、ジェナを支えてきたという。「ジェナ、何があっても言葉を発信し続けて。フランス中の人々にあなたの言葉を届けて。そしてあなた自身や家族、友人が受けてきたその『痛み』を、世界中に共有し続けてください。」ジェナはこう続ける。「愛とは何か、はとても難しいテーマですが、大事なのは『自分らしくいる』ということです。“Never Enough”(十分ということは絶対にない)。これからも成長し続けていく中で、『これで十分』と立ち止まることはありません。自分の心の声をしっかり聞いて、その声に従ってください。これが私の伝えたかったことです。ありがとうございました。」温かくも力強いメッセージで締めくくられた舞台挨拶は、鳴り止まない拍手に包まれながら幕を閉じた 。
