3/28(土)Morc阿佐ヶ谷にて、『クイーンダム/誕生』トークショー付き上映会を開催いたしました。
ゲストには映画ライターのよしひろまさみちさんをお迎えし、本作の歴史的背景やクィア表現としての意義、そして現代社会との接続についてお話しいただきました。
Q:本作をご覧になって、どのように感じられましたか?
A:正直、日本で公開されるとは思っていなかったので、まずそこに驚きました。
本作は、ロシアによるウクライナ侵攻前後の空気をリアルタイムで記録しているという点で、非常に重要なドキュメンタリーです。今年のアカデミー賞長編ドキュメンタリー賞を受賞した作品『名もなき反逆者 ロシア 愛国教育の現場で』とも通じるものがあり、戦時下に突入する国の変化を内側から記録した作品として対になる存在だと感じました。特に、主人公ジェナがギリギリのタイミングで亡命できたことを思うと、この映像が残されたこと自体が奇跡に近いと感じます。
Q:本作を知ったきっかけは?
A: 2023年に初披露されたサウス・バイ・サウスエスト映画祭のラインナップを見ていたときにタイトルが目に留まりました。 さらに調べると、『チェチェンへようこそ』の監督・プロデューサーが関わっていると知り、強く関心を持ちました。ただ、日本で公開されるとはその時点では思っていませんでした。
Q:他のクィア作品と比べて、本作の特徴はどこにあると感じますか?
A:ジェナがノンバイナリーを自認している点が大きいです。セクシュアルマイノリティの中でも、可視化されやすい存在と、そうでない存在があります。ノンバイナリー当事者が実名・顔出しで、自分のアイデンティティを明確にしながら登場することは、決して簡単なことではありません。若い当事者にとって「自分は一人ではない」と思える存在が現れたこと自体に、非常に大きな意味があると感じました。
Q:現在のロシアの状況を踏まえると、この映画はどのような意味を持つでしょうか?
A: 戦時下の国は、変化のスピードが非常に速い。 ロシアではLGBTQ+コミュニティへの締め付けが急速に強まり、現在では活動自体が極めて困難な状況です。本作に記録されている行動は、今ではほぼ不可能でしょう。
だからこそ、この映画は「遠い国の話」ではなく、社会が一瞬で変わる可能性を示す警告としても受け取るべきだと思います。戦争は抽象的なものではなく、政治の決断によって突然始まり、それまでの常識を一変させます。そのとき最も影響を受けるのは、声を上げにくい人たちです。
Q:ジェナのパフォーマンスについて、特に印象的だった点は?
A:ジェナの表現は、80〜90年代のデレク・ジャーマンなどの退廃的・前衛的カルチャーを思い起こさせます。 一見すると「何だこれは」と感じる表現でも、見続けるうちに意味が立ち上がってくる。その感覚は、かつてのアンダーグラウンド文化とも通じるものがあります。
商業主義が強まった現代において、ここまで身体を張った前衛的表現が生まれていること自体、社会の空気を映しているように感じました。
Q:近年、LGBTQ+を扱う映画が増えていることについてはどう思われますか?
A:とても良いことだと思います。 当事者が演じるべきかどうかという議論もありましたが、その議論を経て、当事者が前に出る機会が増えたのも事実です。先人が道を切り開くことで、若い当事者が「目指せる場所」が見えるようになる。それはとても大きな意味を持ちます。
可視化は抑圧を減らします。だからこそ、どんどん作品は作られるべきだと思います。
Q:有刺鉄線のパフォーマンスについて、どのように受け止めましたか?
A:あのシーンは非常に象徴的です。 ただ「痛そう」で終わる人もいるかもしれません。でも、自分の中にある違和感や抑圧に気づいている人にとっては、あの身体表現は深く刺さるはずです。
自分が何に苦しんでいるのかを言語化すること。そのプロセスを考えさせるシーンだったと思います。
Q: 表現すること、そして「声を上げること」の意味についてはどう考えますか?
A. 今はSNSで愚痴を言える時代ですが、テキスト化することと「口に出して発言すること」は別物です。この映画は、抑圧された心で長いものに巻かれて生きるのではなく、リアルに人と関わり、声を上げることの大切さを教えてくれます。多くの人に作品が届くよう、ぜひ口コミで広げてほしいと思います。
■ お客様へのメッセージ
今日はご来場いただき、ありがとうございました。
重いテーマの作品かもしれませんが、この映画は今の世界の空気を確実に映しています。
マイノリティの物語は、決して当事者だけの問題ではありません。社会が変わるとき、影響を受けるのは常に弱い立場の人たちです。 ぜひ多くの方に広めていただけたら嬉しいです。
ご来場の皆様、そして最後までお読みくださった皆様、誠にありがとうございました。
『クイーンダム/誕生』の上映はまだ続きますので、どうぞよろしくお願いいたします。
