飯塚 花笑さんトークショーレポート inシネマテークたかさき

4/25(土)シネマテークたかさきでの上映を記念して、群馬県出身・在住の映画監督、飯塚 花笑さんをお招きしたトークショーを開催いたしました。シネマテークたかさきの支配人、小林栄子さんにもご参加いただきました。

Q:本作を鑑賞して、どのように感じられましたか?
飯塚監督:これは主観というか、個人的な感想ですが、すごく遠い世界の話には思えませんでした。もしかしたらこの映画をご覧になった方の中には、自分の生きている世界の地続きにこの映画の中に映し出された世界があると、感じられなかった方もいらっしゃるかもしれません。ただ、僕にとっては昨今この日本国内でも性的少数者に対するヘイトや、戦争の足音がするように感じていて、そう遠くない日本の未来に今のロシアのような世界があるかもしれないということを、とてもリアリティを持って観られたのが貴重な機会でした。

Q:多くの作品の上映オファーが来る中で今回『クイーンダム/誕生』上映を決定してくださった決め手はありましたか。
小林さん:本当に衝撃的な作品でした。スーパーで買い物をしているのに帰らせれてしまったり、短パンを履いていて怒られてしまったり、そういう生きづらさが映っているところと、これまでロシア映画でクィアやジェンダーを扱った映画が少なかったように感じて、現実を知るきっかけとなるのはやはり映画だと思い、選びました。

Q:飯塚監督の『ブルーボーイ事件』を拝見した時に、自分が住む日本で、自分の知らない壮絶なクィアの歴史を初めて知り、衝撃を受けました。この『クイーンダム/誕生』では、今のロシアで起きている切実な現実を映しています。飯塚監督は今の日本のそう遠くない未来としてこの映画を見たとおっしゃってくださいましたが、映画を通して知らなかった歴史だったり、今起きている痛みを知る。そしてそれを自分ごととして捉える。とはどういうことなのか。制作者の視点も含めてお教えください。
飯塚監督:イチ映画制作者として、フィクションの映画にしても、ドキュメンタリー映画にしても、ある種同じと思っていまして、自分の知らなかった世界に触れることができ、それも映画館で観ることによって圧倒的な没入感を持って自分ごととして捉えられるのが、映画の持つ素晴らしいところだと思っています。でもこれってすごく不思議で、ただ事実をカメラで切り取って編集するだけじゃ意外と伝わってこないのです。『クイーンダム/誕生』という映画の場合は、本作の主人公となるジェナのパフォーマンスがあるからこそ、その苦しみや痛みが伝わってくる。そのフィクション的な部分も織り混ぜながら、この映画が構成されているというところに、ドキュメンタリーとして切り取りながらも、それ以上に感じ得るものがあるところが、素晴らしいと思いました。僕自身が監督させていただいた『ブルーボーイ事件』という作品も、実際に 1960年代当時にあった裁判を元にしているのですが、おそらく裁判の記録に書かれていることをそのまま綺麗になぞっても、あの事件の本質やそこに参加した方々の痛みは伝わってこなかったと思うのです。それをフィクションとして脚本に起こして俳優さんが演じることによって、より伝わってくるものがあったのではないかとこの映画を観ながら改めて感じました。

Q:『ブルーボーイ事件』では、このシネマテークたかさきさん含め、多くの劇場でトークショーをされたと思います。その中で、実際の観客の方々とお話しされる機会もたくさんあったかと思いますが、改めて【映画と人とのつながり】を感じられましたか?
飯塚監督:『ブルーボーイ事件』を観た方々の中でも、実際に性的少数者であったり、身近に性的少数者の知り合いがいる方から、全くその世界に触れたことがない方まで多様なグラデーションの方々がいらっしゃいまして、大きく 2つの感想がありました。 一つは「一当事者としてすごくエンパワーメントされた」「一緒に戦おうとしている仲間たちとの連帯を感じた」というコメントを、より当事者性の高い方々から多くいただきました。一方で、全く性的少数者の方に触れたことがなかったり、知識として知らなかったという方からは「この映画を観ることによって、自分が初めて当事者と接したような体感があった」とおっしゃっていただきました。これは今日のテーマにもなるかと思うのですが、映画を観ることによってより体感できたり、今まで触れたことのない世界を知ることができるのだと強く感じました。

Q:小林さんも劇場で多くの舞台挨拶をされていると思いますが、特に『ブルーボーイ事件』で印象的だったことはありましたでしょうか。
小林さん:本当に毎回、熱気がありました。上映後、皆さんが心から満足して帰っていかれたのがすごく印象に残っています。お客様からいただいたご感想で、「主人公の気持ちになれた」と、登場人物と同じように苦しんで、同じように喜びを感じることができたとおっしゃっていただき、まさに飯塚監督が今お話しされた【自分ではない人生を、映画を通して生きる】ことができたということなのかなと思い、まさに映画の醍醐味だなと思いながら、皆様のご感想を伺っていました。

Q:映画で描かれている通り、ロシアの現状は本当に過酷で、2026年現在では映画の中よりもさらに厳しくなっています。でも日本を見てみても、同性婚が認められていなかったり、 SNSで心ない言葉が飛び交っていたり、決して無関係ではありません。そんなこの日本で本作を遠い国の物語と思わず、自分ごとだと思えるように、私たちには何ができると思いますか。
飯塚監督:まずは小さな一歩として映画を観ることはどなたでも気軽にできると思います。今回のトークショーは、改めてドキュメンタリーという媒体について考える機会になりました。例えば3.11があった時、私は大学 3年生になるタイミングの春休みでした。 東北・山形の大学だったので、学校が再開できず、春休みが延長され、被災地へボランティアに行きました。当時は日々テレビから悲惨な映像が流れてきていましたが、実際に足を運んでみると、ニュースで見たような悲しんでいる人たちは意外と少なく、もうみんな元気になるしかないと、生きるために必死になっている。そんな人たちの姿がそこにはありました。そこで、現実とテレビを通して報道されるもののギャップを感じたのです。そもそもの性質として、映像とはそういうものだと思っています。切り取られた後の映像を見ることは、現実とは違うものに触れることになる。それらに対して疑問をしっかりと持ち、より真実を映し出そうとするのがドキュメンタリーであり、そしてそういった映像に触れられる機会は、シネマテークたかさきさんのような素晴らしい劇場には沢山あると思っています。

Q:小林さんから飯塚監督への質問。主人公、ジェナ・マービンはすごく魅力的な方ですが、もし飯塚監督がジェナをモチーフに劇映画を撮るとしたら、どんな映画になりますか ?
飯塚監督:ワクワクする質問ですね。そういった視点で考えずに映画を観ていたのですが、ジェナがすごく魅力的だなとはやはり思っていました。どんなところかというと、ジェナが自分自身のことをノンバイナリーと公言しつつ、もっと本質を言えば、ジェナの存在自体が一種の「状態」であり、「流動的なもの」であるというようなことを言っていて、それがすごく人間の本質をついているなと思いました。そもそも揺らぎのない人なんていないと思うので。それがパフォーマンスにも現れていて、ジェナ自身が持っている痛みや苦しみ、アイデンティティを、何にも影響されることなく、とてもプリミティブに表現されていて、こんなに素晴らしいキャラクターがいらっしゃるのであれば、ドキュメンタリー作家として切り取りたくなるだろうなとすごく理解できましたし、フィクションの中だとしても、こんなにも魅力的な人物を描く機会があったら面白そうだなと思います。

■お客様から飯塚監督への感想、質問

Q1:ロシアの中でもウクライナへの侵攻に対して、あれだけの熱量を持って反対している方々がいるということを、『クイーンダム/誕生』を通して知ることができました。戦争に向かってしまうと、対立しているその国同士の分断はもちろんですが、同じ国の中でも分断を生むということは、日本も他事じゃなく捉えた方がいいなとも感じました。
A:確かにそうですよね。ロシアで反体制的な表現をしている声や姿というのは報道がされていないでしょうし、今の日本でもデモなどが各地で起きていますが、それもなかなか報道されないというところがある意味似ているのかなと思います。

Q2:『ブルーボーイ事件』がアメリカ・シカゴで行われた第20回アジアンポップアップシネマでコンペティション 長編部門グランプリを受賞したと聞き、とても嬉しかったです。ロシアはLGBTQ+に批判的な国だと元から少し思っていました。ところがトランプさんが大統領になって、最初の演説で「アメリカには男と女しかいない」と言ったことがすごくショックで、アメリカはそういう国ではないと思っていたのに、アメリカも多様性を認めない国になってしまうのかと思い、すごく心配をしました。そういった状況下のアメリカで、『ブルーボーイ事件』がこうして評価されたことがすごく私は嬉しかったです。それに対して監督はどう思っていらっしゃいますか。
A:実は映画祭に招待されていたのですが、現地には行きませんでした。その選択をしたのは、昨年の今頃にアメリカに別の用事で訪れた際、入国審査で性別のことを深く、厳しく問われたからです。今、入国すること自体が特にアジア人の女性が大変という話はよく聞いていましたが、『クイーンダム/誕生』を観た時くらい殺伐としたものを感じました。もちろんアメリカにはいろんな方がいて、素晴らしい場所がいっぱいあるのは承知の上なのですが、今行くのは怖いと感じたのです。受賞の連絡が来た時は、現地で戦おうとしている人たちが『ブルーボーイ事件』を賞賛してくださったことにすごく勇気をもらいましたし、その戦っている人たちの勇気にこの映画がなっていれば、こんなに嬉しいことはないなと思いました。

Q3:ジェナの現在についてご存知でしたらお教えください。
配給が回答させていただきました:ジェナは2026年1月の日本公開時に、イゴール・ミャコチンプロデューサーと共に来日してくれました。本人のインスタグラムでは、現在の活動や生活について、活発に更新されています。
また、劇場用パンフレットのためにジェナに「LGBTQ+ として暮らす中で、ロシアとフランスの大きな違い」を質問したのですが、その際の回答が印象的でしたので紹介させていただきます。「(ロシアでは)これまでの人生ずっと 20cmのハイヒールを履いて石炭の上を歩き続けてきたのに、突然、木の床の上を履き心地の良いスニーカーで歩き始めたようなもの。それほどの違いがあるのです。」パンフレットは全国の上映劇場と、Elles Filmsオンラインストアからご購入いただけますので、ぜひチェックしてください。

Q4:飯塚監督も、環境が変わって心がすごく軽くなった経験はありますか。
A:あります。僕は日本で生きていくつもりですし、日本が好きであるという前提の話ですが。例えば『ブルーボーイ事件』の上映でイギリスに今年の 2月に訪れた際、イギリスは同性婚が認められており、多くの側面で日本より進んでいました。その時に、普段日本では、気づかずにガードして傷つかないようにしていた自分に気がつきました。でもイギリスではそのガードを取っても安心して街を歩けるんだと感じました。ジェナはさらに想像を絶することも体験をしているのでしょうが、それに近いものは土地が変わるとたくさんあるなと思います。

飯塚監督からお客様へのメッセージ
「こうして映画を観て、その国について考えてみたり、「こういった人がいるね」「こういう状況があるよね」と話すことが、今この場が、すごく豊かな場だと感じます。もっとこういう機会が増えるといいですね。そしてその輪が広がっていけば、すごく素敵だと感じました。」

ご来場の皆様、そして最後までお読みくださった皆様、ありがとうございます。引き続き『クイーンダム/誕生』をよろしくお願いいたします。
飯塚 花笑さんが監督を務めた『ブルーボーイ事件』は各種プラットフォームにてデジタル配信が始まっておりますので、こちらもぜひ併せてチェックして見てください。
詳細はこちら

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